Web系とSIerの違い、年収、そして歩むべきロードマップとは
エンジニア転職や就職を考える際、多くの人が直面するのが「Web系企業」と「SIer(エスアイヤー)企業」の選択です。ネット上では「SIerは古い」「これからはWeb系だ」といった極端な意見も見られますが、これら二つはビジネスモデルから文化、求められるスキルまで、まるで別の国のように異なっています。
この記事では、最新の統計データや業界動向を交えながら、自分に合ったキャリアを選ぶための判断材料を網羅的に解説します。
1. Web系とSIerの根本的な違い:ビジネスモデルの「正義」
Web系とSIerの最大の違いは「誰からお金をもらっているか」というビジネスモデルにあります。
• SIer(システムインテグレーター)
銀行、官公庁、大企業などの顧客からシステム開発を請け負い、完成させて「納品」することで対価を得ます。ここでの正義は、「契約通りのものを、納期通りに、高品質で納めること」です。失敗が許されない社会インフラを担うことが多いため、計画を厳密に立てる「ウォーターフォール型」の開発が主流となります。
• Web系(自社開発)
自社でWebサービスやアプリを企画・開発・運営し、一般ユーザーや企業に使ってもらうことで収益を得ます。ここでの正義は、「ユーザーに使い続けてもらい、利益を出し続けること」です。ユーザーの反応を見ながら修正を繰り返す「アジャイル開発」が主流で、スピード感と柔軟性が重視されます。

2. 年収と待遇のリアル:安定のSIer、夢のWeb系
平均年収を比較すると、意外にもSIerの方が高い傾向にあります。
• 平均年収の比較
ある調査によると、SIerの平均年収は452万円であるのに対し、Web系エンジニアは416.2万円と、SIerの方が約40万円ほど高くなっています。これは、大手SIerが大企業を顧客に持ち、安定した売上を背景に高い給与を維持しているためです。
• 高年収ランキング
大手SIerの年収は非常に高水準です。2026年最新の平均年収ランキングでは、1位の野村総合研究所が約1,322万円、2位のSRAホールディングスが約1,283万円、3位の電通総研が約1,123万円となっています。
• 決定年収の上昇トレンド
2024年度の調査では、人材不足を背景に転職後の決定年収が上昇しており、特に「IT・通信」業界は前年度比で17万円アップしています。生成AIやクラウドを活用できる即戦力エンジニアの需要が、年収を押し上げています。
3. 働き方と職場の雰囲気:自由か、堅実か
職場環境や文化も対照的です。
• Web系の自由度
Web系企業はデザイナーやエンジニアが中心の組織が多く、私服勤務、リモートワーク、フレックスタイム制などが浸透しています。遊び心のあるオフィスや、社内SNS(Slackなど)を活用したフラットなコミュニケーションも特徴です。
• SIerの規律と安定
SIerは外部の顧客と接する機会が多いため、エンジニアでもスーツ着用が義務付けられている企業が多いですが、最近ではビジネスマナーを守りつつビジネスカジュアルを認める企業も増えています。
• 残業と安定性
平均残業時間はWeb系が20.3時間、SIerが32.7時間と、SIerの方がやや多い傾向にあります。SIerは「納期厳守」が絶対であるため、納期前には残業が集中しやすいですが、仕事自体の安定性は非常に高いです。
4. 求められる能力とキャリアパス
どちらの「国」でキャリアを積むかによって、身につくスキルは大きく変わります。
• SIer:マネジメントと信頼のスペシャリスト
SIerでは、顧客の要望を正確に引き出すヒアリング力や、大規模なチームを動かすプロジェクトマネジメント(PM)能力が求められます。将来的にはPMやITコンサルタントを目指す道が一般的です。
• Web系:技術を極めるスペシャリスト
Web系は最新技術の選定自由度が高く、プログラミングスキルそのもので課題を解決するスペシャリストが評価されます。Ruby, Go, React, AWSといったモダンな技術スタックに触れる機会が多く、市場価値を高めやすい環境です。
5. 未経験からエンジニアになるためのロードマップ
未経験からエンジニアを目指す場合、1年を目安にした段階的な学習が必要です。
1. 初期(1〜3ヶ月):習慣化
プログラミングに慣れ、GitやDockerといった現場のツールを体験します。この時期はAIに頼りすぎず、自分の頭で考える力を養うことが重要です。
2. 中期(4〜6ヶ月):戦略立案
簡単なCRUD機能(作成・読み取り・更新・削除)を持つアプリを完成させ、デプロイ(公開)まで経験します。
3. 後期(7〜9ヶ月):課題解決能力
「自分はエンジニアだ」という自覚を持ち、要件定義からリリースまでの一連の流れを主体的にこなせるようにします。
4. 最終期(10〜12ヶ月):就職活動
オリジナリティのあるポートフォリオを完璧に仕上げ、PDCAサイクルを回しながら内定獲得を目指します。
6. 注意すべき「闇」:多重下請け構造と生成AIの脅威
業界の華やかな面だけでなく、課題も理解しておく必要があります。
• 多重下請け構造
SIer業界は、元請けから二次請け、三次請けへと仕事が流れるピラミッド構造になっています。下流工程の企業ほど給与が上がりにくく、単純作業ばかりになる「ブラック」な環境になりやすい側面があります。
• 生成AIによる変化
近年、生成AIの進化により、ソースコードの自動生成が可能になっています。これにより、「人並みの実装力」しか持たないエンジニアは淘汰されるリスクがあり、AIを監修する立場や、より高度な課題解決ができる能力が問われるようになっています。
7. 結局、あなたはどちらに向いている?
ここまでの比較をまとめると、それぞれの適性は以下のようになります。
• Web系に向いている人
◦ プログラミングそのものが楽しく、常に最新技術を追い続けたい人
◦ 私服やリモートなど、自由な環境で働きたい人
◦ 自分でサービスを育て、ユーザーの反応を見たい人
• SIerに向いている人
◦ 大規模なシステムを作り上げ、社会インフラを支えることにやりがいを感じる人
◦ コミュニケーション能力や調整力を活かし、上流工程を目指したい人
◦ 安定した給与と雇用環境、充実した福利厚生を重視する人
まとめ
SIerとWeb系の境界は、必ずしもハッキリしているわけではありません。最近では、SIerのような安定感を持ちながら、Gitでのバージョン管理やSlackでのやり取りを取り入れた「中間」のような案件も存在します。
どちらが優れているかではなく、「自分が何に喜びを感じ、どのようなライフスタイルを送りたいか」という価値観にマッチする場所を選ぶことが、エンジニアとしての幸せへの近道です。
複雑なキャリアの選択は、まるで「登山」と「サーフィン」の違いのようです。
計画を練り、一歩一歩着実に頂上(納期)を目指すのがSIer(登山)であり、刻一刻と変化する波(市場)を読み、柔軟にボードを操って楽しむのがWeb系(サーフィン)です。あなたは山を登りたいですか?それとも波に乗りたいですか?その答えが、あなたの進むべき道を示してくれるはずです。